事業の進展から測れば、未だまったく「しあわせ」には近づいていないが、マシュマロちゃんと暮らしていると、彼女の素朴な心と仕草に、僕の気持ちは癒やされる。

去年、彼女は身を粉にして農作業を行った。述べ二ヶ月間も女一人でいちご畑を守った。朝5時半にはもう畑に居て、収穫といちごを食べる小鳥を追っ払った。暗い夜道を毎日独り2km歩いて帰り、野犬に何度も追いかけられた。 離れて暮らさなくてはならず、人肌恋しい時は、スカイプで二人で慰め合った。

それもこれも、今年彼女所有のいちご園を始めるための資金を兄から貰うためだった。しかし、その金額は不明のままだった。

「そう言うことは、たとえ家族でも、いくら払って貰えるのか覚書を作っておくべきだ。文書じゃなくてもいいから、最低限金額を事前に合意しておくべきだ。」 と何度も何度も言ったのに、彼女にはそれができずにいた。

「お兄さんは私を愛しているから、ちゃんと私を救けてくれる」 と言うだけだった。

しかし、貧乏だった人がある程度纏まったお金を手にすると、どうしても使ってしまう。 滅多に行かないMPに行ってみたり、毎日ビールを飲んでみたり、遊びのマウンテンバイクを衝動買いしてしまったりするのだ。 奥さんは、家が欲しくなった。

気が付いてみると、妹にあげるお金はあまり残っていなかった。 事業を始めた頃、お兄さんは 「幾らかはまだ分からないけど、最低20万バーツは払う。」 と言っていたのに、なかなか払い込みされなかった。彼女が聞いても、 「もうちょっと待ってくれ」と言うばかり。 そして、今月初めになって、 彼女に「10万バーツしか払えない。」と言ってきた。

10万バーツではピックアップトラックは買えない。車がなければ、いちご畑の準備もできない。

電話の後、彼女は 「誰も私のことを愛してくれない。」と言って、子供のようにわんわんと泣いた。 何となく予想していたが、まずい展開である。

「あれだけ働いて得た成功なんだから、君はもっと貰う権利がある。ちゃんともう一度お兄さんと交渉しろ。しないなら、僕が直接会って話をつける。」 と強く励まし、彼女はなんとか兄に

「お兄ちゃん、それじゃあ私、車買えない。いちご畑出来ない。」とだけ言った。

「分かった。もう一度考えて見る。」 と答えた兄は、その後電話にも出なくなった。奥さんと妹の何方をとるかみたいな話になり、かなり悩んだようだった。

結局、今日になって17万5000バーツを彼女の口座に振り込む予定であることが伝えられた。それが精一杯だったと想像出来る。 最低20万バーツという話とは違うが、お兄さんは今年の彼女自身のいちご畑の借地料として、5万バーツを払ってくれていたので、それを足せば22万5000バーツということになる。 他にも、パソコンと卒業祝いパーティーのために総額5万バーツ程くれていたので、それも加えたならば、27万5000バーツという話になる。 30万バーツを期待していた彼女としてみればガッカリな話だが、ないものは仕方がない。 ともかく、17万5000バーツあれば、ピックアップの頭金だけは払える。

今週から彼女は自動車運転免許証を取るための教習所に通いだした。予約金の900バーツは自分で払ったが、残りの3000バーツはなかったので、 僕は3000バーツを彼女に握らせた。 僕としても、車があると便利だったからだ。 他になけなしの1000バーツがあったが、母親と妹が親戚の結婚式に着るための服を買ってあげたため、ついに無一文になった。自分は結婚式には出ない。彼女は何時も家族のためにお金を使ってしまって、自分のために使うお金がない。

彼女と24時間一緒にいるが、やることなすこと気に入らなかったトムと違って、彼女の行動は僕の気分を害すことが一切ない。やることなすこと、可愛くて僕の心を和ませてくれる。

ベッドの上でつまらない携帯ゲームで遊んでいても、大興奮の彼女を見ていると、こちらまで楽しくなってくる。 ちょっとしたジョークでも面白そうに僕と顔を合わせながらゲラゲラと笑う。すると僕も何故かつられて笑う。誰かと顔を見合わせながら笑うなんて、僕の人生でしばらくなかった。このごろは、余った脂肪も、いびきまでも愛おしい。

僕が難しい顔をしていると、僕の顔を覗き込んで、 「頑張ってね。」 と笑顔でVサインを見せる彼女を見ると、なんとか事業を成功させて僕の力で彼女を幸せにしてやりたいという衝動が湧いてくる。

「頑張って成功させて、幸せにしてあげたい。」 そう言うと、

「私はもう十分しあわせよ。」と言って微笑んだ。