アップンはアパートを一緒に探してくれた友だちにコーラを買ってあげるために、椅子の上に携帯を置いて席を立った。コーラを持って席に戻ると、そこに携帯はなかった。友だちに聞いても、知らないという。
状況からして、その友だちが盗った可能性が極めて高いが、アップンは何も言えなかった。
「争い事になるのは嫌だから、私何も言えなかった。」とアップンは僕に言った。
その携帯は1年前に5,500Bで買ったスマホで、彼女の持ち物の中で一番高価なものだった。
「どうして、私の人生はこんなに運が悪いの?」と落ち込んだ。
しかし、年頃の少女にとって、人とのつながりの手立てである携帯は生命の次に大切なものなので、なけなしのお金を出して、中古の携帯を780Bで買った。これで、両親とも電話できる。
僕の計算では、アップンの所持金はすでに1,000Bを切っている筈だ。

アップンの唯一の休日の日曜日。
彼女のアパートの下に、ソムタムというパパイヤで作ったイサーン地方のサラダを売る屋台があって、アップンはそこのお店を手伝った。言葉が同じイサーン語だったし、お店の子供がアップンによく懐いて、お店の女将さんからも歓迎された。そして、ここが重要なのだが、無償の手伝いのお礼に、手伝った日はごはんを食べさせてもらえることになった。
「ご飯食べさせてくれるのよ。節約できるから良かったあ。」と嬉しそうだ。
とても、タイらしい話。アップンの逞しさに感心したが、なんだか切なくて仕方がない。

