その日は、治療費が高いことで有名なバンコク病院で医療通訳のアルバイトをしているミッキーが来て、僕の隣で浅い眠りについていた。ミッキーは外面は真面目でおとなしそうだが、内面に淫乱な欲望を貯めていて、それを開放してくれる相手を求めて、その日始めて来て泊まっていったのだった。その話はまた別に書くとして、、、、
夜中の2時半ごろ、トムからLINEで電話してきた。ビデオモードにしろという。カメラをオンにしてみると、両目の周りが紫色に腫れて、大きな眼帯をしたトムの顔が映った。トムは、「痛い痛い」と涙をボロボロ流して泣いていた。
トムのタイ語の説明はさっぱり理解できず、いったい何が起こったのか分からなかったが、事故ではなくて病気であろうことは分かった。
と言うのは、その数日前から、トムの目はうっすらと赤く充血していて、僕は結膜炎じゃないかと言ったのだが、痛みはなかったらしくトムは放置していた。前日は、トムは朝早くから日本語のテストを受けに行っている。電話が有ったのは、その日の深夜のことだ。
電話で、トムがお金を払ってくれと言ったのは聞き取れた。8万バーツとか何とか言っていたが、8万バーツもするはずがないので、8000の間違いだろうと思って、そのまま寝た。
しかし翌朝、電話があって確認したら8万バーツだという。
「そんな馬鹿な。」
結膜炎なら、日本なら薬を出して終わり。800円だ。いったい何がどうなれば8万バーツになるというのか。
トムの説明では
- 眼は大切なので、いい病院に行った。
- 手術した。
- 病院の名前は覚えていない。
とのことだ。
布団の中で聞いていたミッキーは、
「そんなにするはずない。あなたを騙してお金を取ろうとしているのよ。よくある手口。」
「そもそも、お金がない人がそんな高い病院に行くこと自体がおかしい。」
という。前者はともかく、後者の意見はまったく同感だ。
翌日、プーに聞いてみたら、
「私なら、いろんな病院を回って、自分が払える金額の病院にする。8万バーツと聞いたら、その病院では治療を受けない。」
「病院の名前を覚えていないなんて、あり得ない話。病院の名前を言うと、電話で本当かどうか調べられるから言えないのよ。」
「あんたのトムは、絶対悪い女ね、もし、あなたを愛していたら、まず病院に行く前に、あなたのところに来るでしょう。それから一緒に病院に行って、あなたの了解をとってから治療をうけるのが、常識ってもんでしょう?」
まったくそのとおり。
今回のトムの行動は、明らかに僕のお金を当てにしてる。緊急だったとはいえ、事後に8万かかったから払ってくれというのは、あまりにも非常識過ぎる。
もう一つ納得がいかないのは、結膜炎で手術なんて聞いたことないからだ。よほど進行して膿だらけになったときくらいしかしないはずだ。前日はテストを受けられたわけで、その後急に悪くなったとしても、急性期なので、抗生剤の点滴投与で2−3日で治るだろうにと思う。

トムは両眼のまぶたを切開していた。眼球の血管が破れて、真っ赤に染まっていたが、そこは何もしていない。
翌日、その病院からビデオ中継で病院の様子や治療の一部始終を僕に見せた。
「私は嘘なんかついてない。どうして信じてくれないの。」
後で調べたら、その病院は眼専門の病院で、特に美容整形で有名な病院だった。
トムの対応といい、病院のやり方といい、気に入らない。
僕は非常に怒って、払ってくれないと困るというトムを押しのけて、
「僕は自分の仕事でお金がいるから、払えない。」
と固く断った。
ここで払ってしまったら、これからも同じことが続くだろう。
8万バーツを貰えなかったトムは非常に困った立場に立たされるが、知ったことじゃない。これはお仕置き。この頃、いろいろと気に入らないことが多く、カナダに行かせたい気持ちがますます強くなった。
