世の中には音感の良い人と悪い人(いわゆる音痴)がいるが、その能力の差は不思議なほど大きい。

娘のようなトムは、激しく音痴だ。今まであった人の中で一番音痴だ。スマップの中居くんの方がずっとマシだ。

トムは、タイの歌謡曲が大好きで、車を運転している間中、音楽に合わせて楽しそうに歌っている。楽しく歌ってはいるが、音程はまったく合ってない。お見事なまでに音程がずれている。時折、偶然に音程が合いそうになると、変に思うのか首を傾げてわざと音程をずらす。ハモろうとしているのかなと思ったこともあるが、そうじゃない。自分の声の高さを音楽に合わせられないのだ。

「あっ、私この歌大好き!」という曲に変わっても、はじめから終わりまで100%音程がずれている。半音とか、そういうレベルじゃない。聞いていて実に面白い。歌っているトムの横顔を見て、あまりの下手くそぶりが面白くてニタニタ笑ってみても、「なによ?」てな感じで自分の音痴ぶりが笑われているとは思わないみたいだ。多分、自分の音程がずれていること自体に気づいていないので、自分は音痴だとも思っていないのだろう。

「トム、あんた音楽が好きか?」と聞くと、「うんうん、大好き」と無邪気に答える。学校にプールがなくて、クロール、平泳ぎの正しい泳ぎ方を知らないタイ人が多いのと同じように、学校教育に問題があるのかもしれないが、僕が思うに、音楽能力の9割は生まれつき、家系だ。

僕の場合は、父に音楽のいい遺伝子があったらしく、兄も僕も、僕の息子も、音楽能力は人並み以上だが、何故か男にしか遺伝しないようだ。音感の良い人は、こどもの時から才覚を表す。兄は小学校の卒業式で、全校生の前で一人ソロを歌わされた。僕はブラスバンドの指揮者。息子は、音楽専門学校の卒業試験で、学校始まって以来の初の100点満点を得た。一方音感の悪い人はちょっと複雑なリズムやコードになると共感できなくなるので、難しい音楽は楽しくない。

モーツァルトやベートベンみたいな天才になると、きっと名曲も遊んでいる時に鼻歌で出てくるのだろう。凡才は、いくら勉強しても歴史に残る名曲は一生書けないだろう。

 

地球上の生物で音楽を楽しめるのはヒトだけだ。それが、ヒトの一大特徴となっている(言語や道具を使う生き物は他にもたくさんいる)。

いくら音痴の人でも、音楽はみんな大好きだ。音楽を楽しめない人はいない。しかも、時間的、地理的に隔たっている文化で生まれた音楽でも、何の教育なしに人は皆理解できる。新しく進化してきた能力だから、こんなに個人差があるのかもしれないが、どんなに音感が悪い人にとっても音楽は楽しいものだ。

トムの音痴ぶりだって、人前で歌わない限り何の問題も起こさない。